モラハラ・ハラハラ・その4
前回2回に渡って、職場でのモラルハラスメントの一例を具体的に紹介しました。
A子さんの立場から見た状況を中心に、同時にA子さんの心の動きも追っていったつもりです。
彼女は1年ちょっとの勤務期間の間に様々な精神的苦痛を経験し、仕事を辞めてから数年経っても健全な精神状態を取り戻せていません。
他にもモラルハラスメントがきっかけでPTSD(心的外傷後ストレス障害)や不安障害などの神経症になる方もいます。
A子さんのような深刻な事例までではなくても、学校や職場などでモラルハラスメントやいじめを受けた方の心には後々までその時の精神的苦痛が残っている事がほとんどです。
今回は、モラルハラスメントのもうひとつの側面をご紹介します。
Cさんが高校時代に入っていた野球部は伝統があり、礼儀と規律を重んじる風潮が強く残っていました。
先輩が全てであり、理不尽でも筋が通っていなくても反論など一切許されず、どんな屈辱的な事でも従う必要がありました。
その中で耐えて努力し、2年生の夏にはレギュラーの座を射止めたのですが、同時に1年生や補欠への対応が厳しくなっていきました。
彼は1年生や補欠に対してこんな思いを持っていました。
「先輩たちの『しごき』のお陰で、自分はこうしてレギュラーになれた。お前らもこの厳しさに耐えてこそはじめてレギュラーになれるんだ。」
Cさんは現在ある会社の係長です。
部下に対して理不尽な事や筋の通らない事を平気で命令し、それが出来ないとみんなの前で厳しく叱り付けます。
自分が企画した飲み会に、熱があるため翌日の仕事を考えて参加しなかった部下に対してずっと嫌味をいい続けていた事もあったそうです。
過去にモラハラの被害を受け、それが精神的な暴力だと気付かず、自分が受けた精神的な打撃や被害に気付かないまま乗り越えた人の中には、モラハラの「加害者」なってしまう人がいます。
Cさんもそのひとりで、野球部に入った頃に上級生から受けた様々な屈辱、言葉や態度の暴力を自分を鍛え上げるための「しごき」と捉えていました。
そしてレギュラーになるためには必要な厳しさであり、上級生からの愛のムチだと感じていました。
屈辱や緊張、罪悪感、劣等感など精神的苦痛があっても「自分のためにやってくれている」と言う思いから、癒されないまま心の奥にしまわれます。
下級生が入ってくると、今度は「彼らのため」に自分が受けてきた愛のムチを振るったのです。
係長になった現在、自分の部下に対しての言葉や態度は野球部の「愛のムチ」そのものなのです。
このようなモラルハラスメントを受けた被害者が時に加害者になってしまう事を、イルゴイエンヌ女史は「悪の連鎖」と言っています。
実際にモラルハラスメントの加害者の多くは、過去にモラルハラスメントやいじめ、虐待を受けた経験を持っていたり、両親間でモラルハラスメントやDV(ドメスティックバイオレンス/家庭内暴力)があり、それを見て成長した経験を持っている人が多いと言われています。
さらに、その1で「モラハラを起こしやすい人格」としてご紹介した自己愛性人格障害の性質を持つタイプの方は子供の頃満足な愛情を得られずに成長している傾向があります。
憎むべきモラハラの「加害者」の多くは、過去に辛い経験をしています。
こうなると加害者を一方的に悪者だと決め付ける事は出来ませんよね。
そして、今現在モラハラを受けている「被害者」の中には将来「加害者」になる可能性も孕んでいるのです。
なんと悲しい事実なのでしょう。
さらに続きます。
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