モラハラ・ハラハラ・その5
これまでモラハラとは何か、加害者や被害者の心の動きなどをご紹介してきました。
今回はもう少し広義に、幼児虐待やDV、いじめが起るメカニズムの一例として、1971年にアメリカのスタンフォード大学で行われた有名な実験をご紹介します。
心身ともに健康な人々を抽選で「看守役」または「囚人役」に振り分け、刑務所と同じような環境の中で2週間過ごすとどのような変化があるかと言う実験です。
リアリティさを追求するために、囚人役の被験者は地元警察の協力で自宅から「刑務所」に連行されました。
そして、研究者は看守役の被験者達に「囚人を統制するために、暴力以外ならどんな手段を取っても良い」と説明をしました。
「刑務所ごっこ」をするだけで報酬が貰えると楽観的だった被験者達によって実験が始まりました。
2日目に看守に反発した囚人がいた事がきっかけとなり、看守役の被験者達が「自発的に」囚人に対して罰則を決め、守らない囚人は独房に監禁するようになりました。
看守に反抗したものは入浴を禁止し、バケツで用を足す事を強要したり、腕立て伏せを強要したりと言った罰が与えられたのです。
間もなく囚人のひとりが精神錯乱状態となり離脱しました。
また、精神的に追い詰められた他の囚人に対しても独房に監禁した上で残りの囚人全員に彼を非難する事を強要しました。
看守はどんどん威圧的・支配的になり、囚人はどんどん心理的に追い込まれ服従的になって行ったのです。
罰は裸で滑稽な格好をさせたり、素手で便器や靴を磨かせるなどさらに屈辱的なものになり、4日目には禁止されていたはずの暴力が始まりました。
看守は監視カメラのスイッチを切り、暇つぶしに囚人をいたぶっていたのです。その姿は看守達が知らない隠しカメラに映っていました。
時折、実験の見学に来た被験者の知人や家族達は、被験者達と話をしても「刑務所」でどのような事が起きているか皆全く知りませんでした。
囚人役の被験者は家族達に現状を訴える事はいくらでも出来たはずですが、看守達に精神的に支配されており、恐怖のあまり正直に話す事が出来なかったのです。
さらに恐ろしい事に、実験を主催した研究者も「自分がその環境そのものを支配している」錯覚に陥り、劣悪な環境下で精神的・肉体的に窮地に追い込まれている被験者がいるにも関わらず、実験を続行する事しか考えていませんでした。
結局、事情を知った外部の人達の働きかけにより2週間の予定だった実験は6日目に中止となりました。
精神的に大きなダメージを受けた囚人役の被験者達は、その後10年間カウンセリングを受け、今では精神的な後遺症を持つ人はいないと言われています。
後に倫理観のない残酷な実験として酷評されたこの実験ですが、いじめや虐待が起るメカニズムの一端を表しているのではないでしょうか。
閉鎖された環境や特殊な状況下で権力が生まれた場合、権力を持った人間は次第に理性が失われ、権力を持たない人間を支配する行動をとってしまうです。
実験後に看守役だった青年は、実験中に「囚人達を自分より汚い劣った人間と見なしていた」と話しています。
この実験ように役割として決められた「目に見える権力」だけでなく、差別や目に見えない主従関係的な役割も同じ意味を持つでしょう。
学校内での先輩後輩や成績や容姿が他の生徒より劣った生徒、職場内での上司と部下や先輩後輩、家庭内での経済的に生活を支えている夫とその妻、親と子供・・・。
いずれも閉鎖された環境内で上下関係が存在しています。
その関係性が実験のような「権力」となってしまえば、一方が他方に精神的・肉体的な暴力を振るう事象が起りやすいのかも知れません。
[1]週刊ココロコラム
[2]TOPに戻る