「正しい」と「間違い」の境界線
いきなりですが次の文章を読んでみて下さい。
「捏造した情報が漏洩したと声を荒らげる」
「消耗品を買って来たので早急に経費で相殺して下さい」
「手紙は切手の貼付が必須です」
これらの文章に出てきた言葉の中に、読み間違いがそのまま定着してしまったものがあります。
本来の正しい読み方ではこうなります。
「でつぞうしたじょうほうがろうせつしたとこえをあららげる」
「しょうこうひんをかってきたのでさっきゅうにけいひでそうさいしてください」
「てがみをだすにはきってのちょうふがひっしゅです」
いくつ正しい読み方が出来たでしょうか?私は3つだけ合ってました。(^_^;)
誤読をみんなが使うと、今度は誤読の方が耳慣れて正しいように感じますし、本来正しい読み方が間違っているように感じます。
そのうち辞書にも掲載され「慣用読み」として通用し、携帯電話やパソコンの漢字変換でも出てくるようになります。
捏造や消耗品などはほとんどの人が慣用読みを使っていますね。
以前新聞で「捏造(ねつぞう)」と読み仮名がふられていましたし、パソコンで「でつぞう」や「しょうこうひん」で変換しても漢字が出てきませんでした。
問題は「早急」や「相殺」など、本来の読み方をする人と慣用読みをする人が半々のような言葉です。
人によって読み方が変わって来ますので、相手の読み方に違和感を覚えたり間違いだと思う場合があります。
ビジネスやあらたまった場面で、なおかつ人と人の間に上下関係が存在している時は特にややこしいでしょう。
慣用読みを間違いだと指摘する方もいるかも知れませんが、今のところ、「山」を「うみ」と読むような決定的な間違いではなく「白(正しい)に近いグレー」と言えるでしょう。
さらに、これから慣用読みが定着するかも知れない言葉もあります。
最近、「雰囲気」を「ふいんき」と読む人がとても増えており、テレビのアナウンサーも「ふいんき」を使用する人がいます。
正しい読み方は「ふんいき」で、じっくり字を見ると「ふいんき」とは読めない事が解ります。
しかし、これから「ふいんき」と読む人が増えれば慣用読みが定着するでしょう。
「独壇場(どくだんじょう)」は、正しくは「独擅場(どくせんじょう)」です。(漢字のへんが違います)
擅(せん)は「ほしいまま」とか「独り占めする」と言った意味のある漢字ですが、「擅」を「壇」と間違えて「だん」と誤読して慣用読みと「壇」が定着したのだそうです。
このようなケースを考えると、雰囲気がふいんきとして定着する際に漢字が慣用読み出来る当て字に変わる、なんて事が近い未来にあるかも知れませんね。
言葉は生き物と言われていますが、みんなで揃って間違えれば間違いではなくなります。
現在、消耗品をしょうもうひんと読むのもしょうこうひんと読むのも間違いではありませんし、早急をさっきゅうと読むのもそうきゅうと読むのも間違いではありません。
この読み方が正しくてこの読み方は間違い、と言うのは個々の知識や考え方によって変わります。
言葉に限らず、「正しい」と「間違い」は、ひとりひとりの考え方によって「境界線の位置が変わる」と言えます。
昔、ビートたけしの「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」と言うネタがありました。
交通ルールを無視して、赤信号でも車が来なければ渡っていい、と言う考えが一般に定着して皆がそのように行動したら、このネタは成立しませんね。
言葉に限らず、いろいろな物事でも「正しい」と「間違い」の境界線は絶対的でも不変でもないのかも知れませんね。
[1]週刊ココロコラム
[2]TOPに戻る