自分探し・その3

前回、モラトリアムとアイデンティティ拡散についてご紹介しました。(読んでいない方はその1から読んで下さいね)
心理学者ジェームズ・E・マーシアは、アイデンティティの概念をさらに具体的に捉えようと、アイデンティティを4つに分類しました。

■同一性達成(アイデンティティ獲得)
自分の生き方や人生の選択などにおいて精神的な試行錯誤(迷いや苦悩等)の経験を乗り越え、自分が何者であるかや人生の目的・目標等が明確な状態です。
信念や価値観を持ち、精神的に安定しており、円滑な対人関係を築く事が出来、社会との関わりも積極的でスムーズです。

■モラトリアム
前回ご紹介したモラトリアム(猶予期間)の真っ只中にいて、精神的な試行錯誤を繰り返しながら自分を模索している状態です。
精神的に敏感で感受性が強く、不安もありますが、アイデンティティの獲得に対して積極的に努力する姿勢を持っています。

■早期完了
精神的な試行錯誤を行う事なく、親や周囲から示された価値観や目標を、自分自身や自分の目標として受け入れた状態です。
自律的ですが、認められたい欲求が強いため、自分自身が権威的あるいは権威に対して服従する傾向があります。

■同一性拡散(アイデンティティ拡散)
モラトリアムの間に様々な経験や精神的な試行錯誤が上手く出来ず、自分が何者であるかや人生の目的・目標が何か見出せない状態です。
精神的な試行錯誤の経験がない場合は、自分の役割や社会的な立ち位置が解らず、社会的責任を求められると精神的に追い込まれます。
精神的な試行錯誤の経験があっても回避あるいは放棄して、自分を模索する事を積極的にしていない無気力な状態です。

早期完了は、周囲の価値観や目標、つまり自分自身や自分の目標通りの流れであれば、自分自身をコントロール出来ます。
しかし異なった流れになった場合、融通が利かずどうして良いか解らなくなり、途端に精神的に追い込まれます。

昔は今ほど多様な職種はなく、さらに選択する機会もほとんどありませんでした。
江戸時代ならば、武家は武士に、商家は跡継ぎなど、多くの人々が生まれた時点で自らのライフスタイルがほぼ決まっていましたので、この中では早期完了タイプが多かったかも知れません。
一方、現代は職業をはじめとした人生の選択肢が多く、様々なライフスタイルを選べます。
その上じっくりと吟味出来るモラトリアムもありますので、昔の人々に比べると時間的な余裕や広範囲の中での選択の自由があると言えます。

「選択の自由」、一見心地よい響きですが、選択肢が広く自由なほど、自分自身の意思・意志を明確に持っていないと選択出来ません。
自らの意志や目標を明確に持たず、自らの責任を回避しようとしている場合、「選択の自由」は自分の進む道を迷わせます。
そのせいか、自分が何者なのか、自分の進む道はどこにあるのか、と言った明確な役割や目的や目標を見出せず、漠然とした焦燥感や不安の中にいる人達は多いものです。
アイデンティティ拡散は、自分が自分であると言う存在証明があやふやな状態であり、生きている価値が見出せない状態とも言えます。
この状態が長く続くと情緒不安定になったり塞ぎこむ事が多くなるなど、精神的にも辛い状態となります。

次回に続きます。
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