植物状態と意識

以前、一翠先生から伺った話があります。

一翠先生はも話の流れで知人の友人であるAさんのお見舞いに行く事となりました。
教えてもらった病室に着くと知人がベッドの奥に座っており、ベッドに寝ていたAさんは意識がなく、ひと目で長くないと言う事が解りました。
知人がAさんについて話し出し、「この人、長い事病気で苦しんどったけど、長く」と言う言葉が出た時に、一翠先生は慌てて話を遮りました。
何故ならば、Aさんは植物状態で意識不明でも、今の状況をちゃんと認識していると強く感じたからだそうです。
そして、一翠先生は知人に向かって「この人、全部解ってるよ。」と言いました。
「意識がないのに、そんなバカな話あらすか。(名古屋弁)」
「いや、全部解ってる。自分から話が出来ないだけで全部聞こえて理解してるから。」と答えると、今度は知人の友人に向かって
「ね、Aさん。今まで大変だったね。苦しかったね。でも、元気になるために頑張ろうね。きっと元気になるよ。」とゆっくり話しかけました。
すると、意識がないはずのAさんはうっすらと涙をにじませ、ほんの少し、ゆっくりうなづいたのです。
それを見た知人は「Aさん!動けへんのに!!」と信じられない顔をして驚いてました。
一翠先生は、Aさん自身は自分の命の火が消えようとしている事を知らず、痛くても辛くても必死に生きようとする気持ちが伝わってきたので頑張ってと励ました、と話していました。

  このお話を聞いたのが随分前でしたので、すっかり忘れていたのですが、つい数日前に思い出しました。
それは、こんな記事を目にしたからです。

1983年に交通事故に遭い、植物状態と診断されたベルギーの男性がいました。
家族は植物状態の判定を信じず、献身的に看護を続けた23年後の2006年、家族の依頼で行った「世界最高水準のスキャンシステム」を使った検査によって、「彼の脳がほとんど正常に機能している」事が解りました。
体は完全に麻痺しているものの、はっきり意識かあったのです。
もちろん、医師や看護士、そして家族など周囲の会話は全て聞こえていました。
その後、理学療法により車椅子に乗り、専用のコンピューターによってコミュニケーションが取れるまでに回復しました。
彼は「植物状態」として過ごす羽目となった20年以上の歳月について、少しずつ語り始めています。
「周囲の人々に意識がないと思われていると気付いた時、最初は非常に怒りを感じました。しかし我慢することを学ばざるを得ませんでした。」
「叫んでも叫んでも声が出ないのです。夢を見るしかありませんでした。」
「わたしが感じていたものは、フラストレーションという言葉ではとても言い尽くせません」
1997年にこの男性の父親が他界した事も、母親からの話で理解しており「そのとき助けられなくてごめん、ママ」と伝えたのだそうです。
この男性を診断したロウレイズ医師は研究をまとめてつい最近発表しました。
医師は「植物状態とされる44人を検査し、18人がコミュニケーションに応じた」とも話しています。(元ネタ:medicalnewstoday)

事故当時、国際的な判断基準に沿って何度も診断した結果、植物状態と認定されていますので、誤診と一言で片付ける事は出来ません。
しかし、意識があるのに「意識がない状態」とされ、自分からは何も返す事が出来ない辛さは、想像を絶するものだったでしょう。

先にお話した一翠先生の事例も、きっとベルギーの男性と同じように意識があったのでしょう。
もし、不幸にも意識不明になった方や植物状態になった方をお見舞いに行かれるような事があれば、ゆっくりお話をしてみて下さい。
受け答えが出来なくても、ちゃんと聞いているかも知れませんよ。
[1]週刊ココロコラム
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