潔癖症・その2
前回、「清潔症」「潔癖病」の傾向についてご紹介しました。(第271「潔癖症・その1」参照)
その中には「一般的な日常生活」が出来ないほど、過度な潔癖傾向に苦しんでいる方もいらっしゃいます。
子供の頃から人一倍きれい好きの傾向があったA子さん。
中学2年の時、古い校舎の教室になりましたが、その校舎のトイレは和式で匂いが強く、A子さんはとても汚く感じてトイレに入れなくなってしまいました。
そして、次第に「汚いトイレ」に行って帰って来たクラスメートが「バイ菌」に汚染されたと感じるようになりました。
そんなクラスメートが触った机や椅子、黒板消し、チョークなどが段々汚く感じられ、さらに教室や学校の空気自体が汚いものに感じるようになりました。
A子さんは、バイ菌で汚染された環境にさらされた自分の学生鞄や制服だけでなく、自分自身も「汚染」されたと感じ、帰宅すると玄関で服を脱ぎそのままお風呂に直行し、2時間かけて体中を洗うようになったのです。
制服や鞄、靴などは除菌スプレーをなくなるまでかけ続けます。
そして、「汚染された」姿のままで入って来た玄関もバイ菌だらけに感じられ、とうとう一切外出せず自室に閉じこもるようになりました。
自室の外(つまり台所やリビング、トイレなど)に出ると、部屋に戻る前には必ずお風呂に入り2時間かけて体中を洗い、部屋の入り口で除菌タイプのウェットティッシュで念入りに足元を拭いて入ります。
A子さんは自分の「汚い」と感じる思いや清潔にする行為がおかしい事に気付いており、普通に学校にも行きたいと思っています。
しかし、それ以上に「汚い」「汚染」に対する恐怖や不安が強く、自分自身の思いや行為を止められないばかりかどんどんエスカレートしていきます。
A子さんのように特定の考えや観念が頭から離れず、他の事が手につかなくなるような時は「強迫観念にとらわれる」と言います。
この強迫観念が過度に強くなり、特定の考えに支配され、自分自身おかしいと解っていてもやめられず、同じ事を繰り返し日常生活に支障をきたすような状態が「強迫神経症(強迫性障害)」です。
潔癖(不潔恐怖)以外にも、何度も何度も戸締りや火の始末を確認しないと気が済まず、家を出られなくなってしまうと言ったタイプも強迫神経症です。
強迫神経症になる原因ははっきり解っていませんが、傾向として生真面目・几帳面・些細な事にこだわる・完璧主義・上昇志向が強いタイプの人が多いと言われています。
学業不振や挫折経験、悩みなどをきっかけに発症する事が多く、日常生活に大きな影響を与えるようになると、他の神経症や依存症、うつ病などを併発する場合があります。
また、掃除を強要したり徹底的に排除されるなど近しい人達も巻き込まれる場合もあります。
強迫神経症は「強迫観念」と「強迫行為(強迫儀式)」があります。
潔癖症の場合、強迫観念が「汚い」「汚染された」「バイ菌がついた」で、「お風呂に入る」「除菌する」「掃除する」と言った行為が強迫行為です。
強迫行為を行っても、強迫観念から来る不安や不快感はなくなりません。
なくならない不安や不快感をなくそうと強迫行為を繰り返す悪循環から、エスカレートして行く傾向があります。
そして、先のA子さんのように、強迫神経症は不条理さをどんなに自覚していても強迫観念を打ち消す事が出来ません。
強迫神経症は精神科や神経科で治療法が確立されていますので、適切な診断と治療によってやや時間がかかるものの7〜8割の方がほぼ治ります。
日常生活にそれほど支障がなければ治療をする必要はありません。
しかし、日常生活に支障がある、本人がとても苦しくて辛い、家族にこのような症状の人がいて心配、と言った場合は専門医に看てもらう事をお勧めします。
[1]週刊ココロコラム
[2]TOPに戻る