基本的信頼
盲導犬になる為の子犬を育てる「パピーウォーカー」と言うボランティアがある事をご存知でしょうか。
パピーウォーカーは生後2ケ月の盲導犬予備軍の子犬を預かり、10ケ月間飼育をして盲導犬協会にお返しします。
パピーウォーカーになる為には条件があり、審査と面接があります。
条件はいくつかありますが、なによりも「愛情をもって飼育する」が大前提となります。
盲導犬は人間の目となる訳ですから、人間との絶対的な信頼関係がないと務まりません。
厳しく過酷な訓練から始まり、美味しそうな食べ物の匂いがしても、足を踏まれても我慢して、盲導犬を引退するまで人間の指示を受け続けるのです。
何故人間に、はむかう事をせず、自分の本能を押し殺してまでも人間に尽くせるのでしょうか。
それは、子供の頃にパピーウォーカーさんからいっぱい受けた愛情があり、心理学で言う所の「基本的信頼」が確立されている部分が大きいのです。
赤ちゃんは両親や身近な人、特に母親からの無条件の愛情を受けると「この世に受け入れられているんだ、自分がこの世界に存在する価値があるんだ、信頼してもいいんだ」と感じます。
そして、自分の「生」と自分を取り巻く世界を受け入れて、その信頼感を自分の心の土台にして成長していきます。
自分の事が好きになり、人を信頼するようになり、物事に関して恐怖よりも興味を持ちます。これが「基本的信頼」です。
その後、親や身近な人との交流の中で思考・感情を成長しながら身に付けていきます。
ココロコラムで過去に紹介している「第69回静かな赤ちゃん」や「第71回傷ついた子供の私(アダルトチルドレン)」、「第32回ホントは淋しい色男」「第39回恋愛依存症」等は、この「基本的信頼」が上手く築けなかったり、その後の成長過程で愛情をうまく受ける事が出来なかった人に多く見られます。
他にも、ウツや精神病、引きこもり等も、「自分の事を好きになれない」為に発生する悩みを多く抱えている人達も同様でしょう。
赤ちゃんを抱いた母親に、お兄ちゃんやお姉ちゃんが「だっこー」と泣いてせがむシーンを街中で見かけたりする事もありますが、こんな些細で日常的な事も、もしかしたらその子の心の傷になるのかもしれません。
世の中の大変多くの人達が、子供の頃に何がしか心の傷を持っているのかも知れませんね。
あなたも、私も、親も、恋人も、イヤな上司も、ライバルも。辛いのは自分だけではないのです。
そうやって考えると、嫌いな人でさえ少し親近感を覚えるから不思議ですね。
大切に育ててくれた、大好きな家族と別れて、盲導犬の訓練を受け、アイメイトとなるべく違う主人の所へ行く盲導犬も、もしかしたら心の傷を持っているのかも知れませんね。
[1]週刊ココロコラム
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